漢方の副作用、知っておきたいあなたへ
漢方は「体にやさしい」「副作用がない」というイメージがあるという方は多いと思います。
実際、西洋薬の副作用発現頻度と比べたら漢方薬の副作用報告は少ないということは事実です。
厚生労働省から報告される医薬品副作用情報でも、漢方薬が収載されることはほとんどありません。
しかし、ゼロではないということも事実です。
漢方薬の副作用について正しく知っていただき、安心して服用していただくために、私の経験とお客様の声もあわせてお伝えします。
漢方薬の一般的な副作用
下痢や軟便
漢方薬には、便通をゆるくする作用のあるものは多いです。これは便秘薬だけではなく、駆瘀血剤とよばれるもので血の流れを強力に改善する作用のある生薬によくみられる作用です。生薬の血流の流れをよくする作用が、便通もゆるくします。
例えば、桃仁(とうにん)という桃の種。桃仁は桂枝茯苓丸という更年期障害などに使われる漢方薬に入っていますが、下痢気味な方にはお勧めできません。種に含まれる油分が便通をゆるくするのです。
また、大黄(だいおう)という便秘にも使われる薬は血流を改善させる目的で入っていることもあります。痩せ薬で有名になった防風通聖散という漢方薬に大黄は含まれていますが、この場合の主目的は血流の改善です。ドラッグストアでも購入できるので、漢方の痩せ薬だから安心と思って長期に服用していると、体質に合わなくて体調を崩されたということもあるのです。
他にも、便通をゆるくする生薬は当帰(とうき)、麦門冬(ばくもんどう)、など、いくつもあります。
逆に、便秘気味の方にこういった生薬が多く配合されている漢方薬を飲んでいただいて、便通も改善して体質をよくしていくことも多いのです。
胃痛・胃もたれ
乾地黄(かんじおう)、石膏などが含まれる漢方薬は、胃の弱い方にはあまりお勧めしません。
乾地黄は、血を補う・増やす目的でよく配合されているのですが、飲むと胃がムカムカする、食欲がなくなるという方もいます。
乾地黄は、地黄という植物の根を乾燥させたものなのですが、これがただ乾燥させるだけではなくて、蒸してから乾燥させると「熟地黄(じゅくじおう)」という生薬になります。乾地黄と熟地黄は別の医薬品です。熟地黄になると含まれる成分が変化して、胃の弱い方でも安心できる生薬に変化します。また血を補う作用も増加します。
ですが、保険で処方される場合にはどちらの地黄を使用してもよいことになっており、日本で使われているほとんどの生薬は「乾地黄」です。本来であれば熟地黄が望ましいという方にも乾地黄が使われているということです。
ただし乾地黄は清熱作用があるので、私はアトピーなどの熱をおさえて乾燥を補いたい場合などに使っています。
むくみ
人参は体の疲れを補う高価な生薬ですが、体の中に水分をためる作用があります。水がたまると困る場合には、水を巡らせる生薬と併用した漢方薬を選択するか、人参の入っていない漢方薬を選びます。そのほかにも麦門冬(ばくもんどう)は体の中を潤す生薬であるため、空咳などに効く漢方薬にも含まれていますが、痰が多くですぎるタイプの喘息に使われてしまうと痰が出すぎて辛くなってきたりしますので注意が必要です。
漢方薬による重篤な副作用報告
間質性肺炎
間質性肺炎という風邪のような症状には、黄芩(おうごん)という生薬が含まれる漢方薬で多くみられることが分かっています。漫然と長期にわたり同じ漢方薬を飲むようなことがないよう、ただの風邪と判断しないように注意が必要です。間質性肺炎は,肺胞壁が侵されることによる病変ですが、放射線,薬剤,膠原病,アレルギーなどのさまざまな原因によっても誘発されます。漢方薬が原因と思われる発症例数はわずかですが、C型肝炎治療薬のインターフェロンと併用した症例に多くみられました。
偽アルドステロン症
甘草(かんぞう)という生薬は別名リコリス。食品の甘味料にも使われる生薬です。甘草はグリチルリチン酸を含有し偽アルドステロン症を起こすことがあると報告されています。偽アルドステロン症は血圧上昇・浮腫・体重増加、低カリウム血症を引き起こし、脱力感、四肢痙攣・麻痺などを引き起こす可能性もあります。
甘草は認可されている漢方製剤の約7割の処方に配合されているため、病院で処方される漢方薬を2~3種類あわせて飲んでいる場合は甘草の容量が2倍以上になることもあり注意が必要です。市販の風邪薬や胃薬にも甘草が含まれていることも多くあります。含有量が多くなることで副作用の発現リスクが高くなりますので、服用前にチェックする必要があります。
妊婦さんが避けるべき生薬
駆瘀血薬とよばれる、桃仁、紅花、大黄などは妊婦さんには慎重に投与されるべきと思います。当店では不妊治療の方に飲んでいただいている漢方薬に少量づつですが含まれているため、妊娠検査薬で陽性反応がでた時点で一旦服用を中止してもらいます。病院で検査をしていただき妊娠が確認できた方には、安胎薬となる漢方薬や、流産予防のお薬に変更していただきます。
漢方薬による副作用の違い
おなじ名前の漢方薬でも、煎じ薬とエキス剤(粉薬)とでは副作用の発現頻度は違うと思っています。煎じ薬の方が薬効のパワーが強い分、副作用のことも念頭に考えて慎重に選択する必要があると考えます。
一方、ドラッグストアで販売されている漢方薬は、比較的安全です。市販薬は誰もが相談なしに購入することを考えて、有効性よりも安全性を重視するためです。使われている生薬の量が医療用と比べたら半分以下のものもあります。市販薬は、漢方相談するのは難しい方、忙しい方のためには便利ですね。自分やご家族の体質や体調にあった選択ができれば活用していただきたいと思います。ただし、メーカーによっては同じ漢方薬でも中身が違いますので、ご注意ください。
原料の違いによる副作用の違い
粉薬のエキス漢方薬しか調剤したことのない頃には考えもしなかったことですが、同じ名前の生薬でも原料が違うことで薬効や副作用も違ってきます。
たとえば、お肉を買うことを考えてみてください。「お肉」とひとくくりに言っても、豚肉、鶏肉、牛肉がありますね。「牛肉」といっても、神戸牛、米沢牛などのブランド牛もあれば、「鶏肉」でしたらブロイラーか地鶏かという育て方で味が違います。
漢方薬の原料である生薬にも、お肉と似たようにブランドや産地による違い、育て方や使用部位が違うものもあるのです。栽培品か野生品かという違いもあります。
近年、栽培物の生薬が激増しており、本来の野生品とは含まれる成分や味なども変化してきています。そういった観点からも、副作用の出現頻度は違ってくるのですが西洋薬のように大規模な試験例で示されるのではなく、長年の経験として伝えられ発展、進化してきた伝統医学が漢方薬です。すべての生薬が高価なものなら間違いない、ということではなく費用対効果も考えながら、相談者さまの体調を随時伺いながらアドバイスさせていただいております。
漢方薬による副作用を避けるためには
漢方薬の副作用は、緩やかなものが多く、短期的な服用で危険な状態になることはほぼありません。ですが漢方薬の副作用を避けるためにも、効果を高めるためにも、まずはその方の体質や日ごろの体調をしっかりと把握することから始まります。
作用の現れ方は個人差が大きいこともあります。お薬でなくても、サプリメントなどの健康食品でも副作用が起きやすい敏感な方もいらっしゃいます。そういった方は、漢方薬も慎重に始める必要があります。また、医薬品の副作用は長期に服用することで現れるものと、飲んですぐ感じられるものがあります。
もしも日常生活に支障がでるほどの変化を感じられた場合には、すぐ他のお薬に変更していただきますのでご連絡ください。
当店では、漢方薬を始めた方は服用して3日前後で体調の変化をお伺いし、2週間~1か月おきには経過を確認させていただきます。漫然と同じお薬を服用し続けていると、ご本人の気づかないうちに思わぬ副作用があってはならないからです。
ご自身の判断で市販薬を続けられる場合にも、特に長期に服用する場合には体調の変化、特に便通・食欲・睡眠について定期的にチェックされてくださいね。